interview

加賀山 耕一

【話す人】

NPO法人 千住芸術村代表

【聞き手】

Megumi Fujii

空き家再生のきっかけ
・これまで千住(東京都足立区)の街の空き家5棟(2018年現在7棟)をリノベーションして、若手のアーティストさんたちの活動拠点に再生したそうですが、はじめたきっかけは?

千住緑町の生家を取り壊す話が出たときに、たまたま東京芸大の北千住校(音楽環境創造科)が開校になると聞き、夢ある学生に貸すことにしたことがきっかけです。


・借りる側ではなくて、貸す側の大家さんだったのですね。
じつは、そうなんですよ。

・貸してみて、どうでしたか?
どうでしたか、と聞かれても困るんですが、まず貸してから1年くらいは、近隣からの苦情対応で大変でした。

・ゴミとか騒音ですか。
それもありましたが、それよりも「新興宗教の施設になったのではないか」との疑惑を持たれたことが決定的でした。向こう三軒両隣に挨拶しただけではダメなのだ、と痛感しました。

・苦情の対応とはどんなものですか?
語るも涙、話せば長いので、やめておきます(笑)。
ただ、近隣住民と学生の間に入って大家としてクレーム処理しつづけることは、親切に見えて親切ではありません。今から思えば、すべて学生に対応させるべきだったと思います。

・学生で対応できますか。
全部はできないと思いますけれども、できないと自覚してもらってから、こちらが介入した方がよかった。学生たちに負担をかけまいとして、ほとんど裏で動いて解決してましたから、結局はこちら側にストレスが溜まっていって。結果的に学生とも関係がわるくなりました。

・むずかしいですね。よかれと思ってのことなのに。
世の中、たいてい「よかれと思って」が仇になるんです(笑)。

・ストレスが溜まるような空き家の再生、それ以後は借りる側になって続けられてますが、どうしてですか。
大変だった最初の1棟目ね、学生たちが「おっとり舎」と名付けた、彼らの活動が予想以上に面白かったのかも知れません。コンサートやったり、DJや演劇なんかもね。おじさん(私)には理解不能で、遠目に見ていて内心あきれたり、たまに驚嘆したり。きっと、おじさんの心にも響いたんだと思います。

・ストレスなのに、ですか?
芸大生ってね、自分たちは学生ではなく天才アーティストであるという思い込みがあって、こちらの言うことに真っ向から反論してきました。いい意味でウソのない手応えがあった。時に怒りも覚えたけれど、心の底では「見込みがある」と彼らを認めていたんでしょう。そのぶん頭髪は薄くなりましたが(笑)。


入居者の選考基準

・2棟目はどのような経緯で。
1棟目の反動っていうのか、今から思うと。1棟目の芸大生5人がこっちの言うことを一切聞かなかったのがよかったのかも知れませんね(笑)。彼らのわがままと頑固な熱意ね。年甲斐もなく若い奴らに対抗する気持ちが出てきて。別の空き家を再生してリベンジするぞと。

・それで2棟目も学生さんに?
2棟目の入居者を、やはり学生限定で公募して6組の応募があった中から、オモシロそうな東京芸大油画科の女子学生4人のグループを選びました。期せずして1棟目は全員男子学生、2棟目は全員女子学生。

・リノベーションしてきれいにしてから入居者を決めるんじゃないんですか?
普通の不動産の賃貸物件はそうするでしょうけれども、芸術村方式は逆。入居する人を選んでからリノベーション、これが基本です。

・選考基準は? 人柄とか、作品や企画が素晴らしかったのですか。
作品のよしあしなんて私には解りません。というよりも、そういう評価はしないことにしてます。1棟目の音楽環境創造科の学生を選んだときも。初めてY君と面談した時、彼に将来何をやりたいのか、どんな活動をしたいのか、尋ねたのですが、私には彼の言っていることがチンプンかんぷん。理解できませんでした。熱意だけは伝わる。で、これは有望だ、と。中年の私が簡単に理解できるような活動では先がありませんから(笑)。

・2棟目の入居者に芸大の油画科の学生さんのグループを選んだのも、加賀山さんの理解を超えていたからですか?
いえいえ。企画も何も普通でしたね。

・では、どうして?
この4人の女子学生がですね、芸大に入学するのに1人は1浪、もう1人は2浪、あと3浪と4浪という豪華ラインナップ。ポーカーで言えばストレートフラッシュでしょ。これは何かあると(笑)。正直ちょっと迷いましたが、面白いと思って決めました。彼女たちに、そうは言いませんでしたけれど。

費用は自腹?それとも助成金?
リノベーションの費用はどうしましたか?
1棟目で自己資金は底をついてましたから、仕方なく2棟目は足立区の助成金を頼りました。個人では相手にしてもらえないということも解り、この段階で千住芸術村をNPO法人にしました。足立区協働推進助成事業で3年間の枠。ダメもとで申請したら、なんと初年度250万円獲得。びっくりでしょ。でもね、こういうお金は人生を難しくする(笑)。

・人生を難しく?
助成金をもらった瞬間から、もう外食とか質素にしないと、誰が見てるか解りません(笑)。気が弱いんでしょう、きっと。税金で私腹を肥やしてゼイタクしていると思われたら大変なので、結構、気をつかいました。

・うなぎとか食べられませんね。
そう。うなぎは特に。役所批判もできにくく(笑)。助成金の役割って、おそらく国民を黙らせる目的もあるんじゃないの。この点では結構成功してると思います。

・資金面では順調なスタートのようで、よかったですね。そのあとの3年間はどんなでしたか。
人生って、うまくできてますよ。3年間出ると言われて喜んでた助成金。これね、区の協働推進課という課自体がなくなってしまい、2年目以降は1円も出ないことに。

・えっ。課がなくなって助成金が出なくなったんですか。
そうです。でもこれ、天の啓示でした。いい気になるな、道を誤るでないぞ、と。世の中の多くのNPOの脆弱さの根源は、助成金に頼りながら運営してるところ。3年間も助成金もらってたら、今の千住芸術村はなかった。今思えば助成金の打ち切りは逆に幸運でした。

空き家を再生する難しさ
・これまでに千住で空き家5棟(注・現在8棟目)もリノベーションしたって、すごいと思いますけれど、ご自身としてはどうですか。

ほとんどPRしてきませんでしたから、誰もすごいとは思ってませんよ。自分としては5棟では不十分で、まあ私が生きている間に最低でも10棟はね、1度やろうと決めたからには。

 

・もっとPRすれば加速しそうにも思えるんですけど、PRしないのは、なぜなんですか。

・面倒だからです(笑)。ホームページも休止したまま。このインタビューもいつ使えるんだか。申し訳ないくらい。

 

・大丈夫です、いつか使えると信じて続けましょう。で、PRしてこなかった理由は?

大家さんから「空き家再生だの、空き家、空き家って言わないでもらいたい」と言われていたからもあります。新聞に活動の記事が出ると、必ず見ず知らずの人から「お役に立ちたい」といった連絡がくる。それで会って話するでしょ。結局ね、空き家の再生に関われば、お金になるんじゃないか、という軽い打算。本気で空き家で儲けるつもりだって話なら、こっちも本気で聞きますけれど、本気じゃない。あわよくばって人の対応が1番面倒。それに3棟4棟再生したからって、どうってことない。10棟くらいまとまらないとビジネスにもならない。

・空き家はどうやって発掘するんですか?

発掘するも何も、道を歩けば空き家に当たるでしょ。

・たしかに空き家はいっぱいありますけれど、すぐに借りられるものですか?
借りられませんね、なかなか。それどころか、まずね、空き家の大家さん、つまり持ち主が誰なのか、それがわからない。たとえ解ったとしても、そこからが大変な長丁場。

・長丁場?
空き家のことを知らない人はね、不動産屋に出ている物件と似たようなものだと思ってますからね。持ち主がわかって、平身低頭で家賃の額でも提示すれば貸してくれるだろうと思ってますけれども、これがそうは問屋はおろさない。

・たとえば?
不動産屋に情報として出ている賃貸物件はね、持ち主の側に貸す意志があるから公開されている。空き家はね、持ち主に貸す気がまったくない。この違い、天と地との開き。建物の古さは同じだとしても全く別物。

・普通の賃貸物件は不動産屋が仲介して家賃が払えそうな人なら貸してくれますね。きちんと家賃を払うと言ってもダメですか、空き家は。
難しいですね。たとえばですよ、普通の本を買うなら本屋に行けば買えるでしょ。図書館に行けば本は借りられる。これ普通の不動産物件。いっぽう空き家はね、例えば見ず知らずの人の家の本棚に並んでいる本をね、たまたま窓からちらっと見えたタイトルにひかれたとして、これ、借りたり買ったりできないでしょう。

・できないですね。道から声かけたら不審者ですね。
そう、正に不審者。世の中には、赤の他人の家の中にある物を借りたり買ったりの商習慣がない。他人の家にある本でも物でも何か借りたいと思ったって無理。売る側や貸す側に、売る気や貸す気の表明があってはじめて商売は成立する。貸す気もないところに突然行って、ピンポーン、「すみません、そこのテーブルすごく素敵なので1日2千円で貸してください」って言ったら即110番通報されるのがオチ。ましてや(空き家は)単に使ってないだけの「家」建物本体そのものですよ。これを借りようっていうんだから、「貸してください」ですんなり行くと思いますか。

空き家は頑固な臨戦態勢?
・貸す気のない他人の家を借してくださいって、それだけでも相当の覚悟がいりそうですね。
覚悟どころじゃないですね。空き家っていうのは、誰にも貸しません、誰にも売りません、何もしたくありません、あらゆる提案を門前払いしようと静かなる臨戦態勢でそこに建ってるんです。

・臨戦態勢ですか。
そう、いくらボロくても臨戦態勢ですから、見た目以上に手強いですよ。大家さんを探して、「すみません、●●の空き家なんでが・・・」と聞いたりすると、キッとなって「あれは空き家じゃない、倉庫として使ってる。見ればわかるだろ」って怒られたりします。

・ちょっと怖いですね。
そうですよ。空き家を借りるのに、お金を積めば何とかなるとか、条件面を整えれば何とかなる、行政が乗り出せば解決できるはずだ、と言ってる人は「空き家」の実態を知らない人。

・なるほど。
それと、空き家を建て替えれば毎月賃料収入が入ります、35年一括借り上げで確実ですよ、っていう類の話はね、すでにオーナーさんの耳にタコができてる。売却はもちろん、建て替えに誘導する電話セールスも頻繁。日常的に大手の不動産業者の営業が来てます。D建託とか、Lパレスとか。玄関先でバッティングしたこともあります。

・競争相手がいるんですか、大変なんですね。
今頃わかりましたか(笑)。貸す話にも乗らない、売る話にも乗らない、建て替える話にも乗らない、これが今残ってる空き家の本質、持ち主側の実状です。この持ち主にアプローチするとしたら、あなたならどうします?

・やめておきます(笑)
そうでしょう。できれば私もやめておきたい(笑)。

不動産業者が空き家に関わらない理由
・空き家がそのまま残されている訳が少しわかった気がします。普通の不動産業者は手間がかかり過ぎて、手をつけないんですね。
そういうことです。(空き家を新たに賃貸物件にする交渉は)費用対効果でまったく商売にならない。時間の無駄。だから商売抜きというか、まったく別のモチベーションがないと、ボロくて面倒な空き家をわざわざ(不動産市場にのる)賃貸物件にしようなどとは思わない。

・そうなんですね。
例えばですよ、登記簿謄本に記載されているのは持ち主1人かというと共有名義の場合もある。さらに登記簿に関係なく、実際には兄弟から家族から、時には親戚まで関わってきますから、第三者が空き家をどうかしようと思っても、一筋縄ではいきません。

・持ち主ひとりの問題ではないということですか?
そうです。1年半くらい持ち主と交渉してきて、やっと「貸してもいいよ」ってことになった。いざ契約の日。喜び勇んで出向いたら親戚か誰かわからない7、8名に囲まれまして(笑)。「うまいこと言ってウチの財産を乗っ取る気か」ってなもんで、持ち主本人は貸すと言ってるのに、周りが許さない。うなだれて帰ってきたこともあります。

・大変なんですね。
でもまだ「貸してもいい」という意思表示されるところまで行けるならいい方で、それ以前に、門前払いからはじまって、さまざまな理由で断られる。断られるだけじゃない、塩もまかれる。これ以上は聞くも涙、語るも涙なので、やめておきますが。

・いままで何人くらいの大家さんとお話になったのですか。
50人くらいですね。

・交渉がうまくいくコツというか、借りられる時と、借りられない時の違いは何かありますか?
(笑)よく聞かれる質問です。これ漠然とした話で申し訳ないけれども、縁としか言いようがないですね。相性かなと思うこともある。あえて言えば、こちらの誠意が通じたというよりは、先方の状況が変わっただけ。

・どういうことですか。
つまり「断られた」という状況が、ある日とつぜん「貸しますよ」というふうになる訳で、なにもこちらが対応を変えたのでもなく、貢ぎ物をした訳でもない、つまり大家さん側の変化。私の手柄じゃないということです。

空き家再生にとって最も大切なこと
・空き家の再生でもっとも大切なことは何だとお考えですか。
ひと口に空き家の再生って言いますけれど、まず再生の前にね、いま言ったように、空き家を借りなければ話にならないという事実、ここを世間の人は軽くスルーする。専門家でも。

・???
マスコミの報道や、全国の成功事例ばかり見てるとね、ボロボロだった空き家をこんなふうに再生させました、こんなに若い人が集まりました、といった見た目にとらわれて、それが空き家の再生だと思ってしまっている。大いなる誤解ですね。

・わたしもそう思ってました。誤解ですか。
・全国の成功事例を記した報告書の類、あれって現場で本当に汗をかいている民間個人の活動や、空き家の奧にある事態の本質を過小評価してます。それで勘違いする。たとえば、ここにある典型的な報告書のコピー、ちょっと読んでみますよ。

「今後の空き家利活用事業は、当該地域の専門コーディネーター(地場不動産業者、町内会自治会役員、外部コンサルタント等含)を専任した上でエリアマネジメント(都市計画・防犯防災・地域活性化等)の観点から、家主と誠意ある交渉を重ね、広くプレーヤーを募りマッチング、定期借家契約等を締結して適切に活用すべきである」。

どうです、聞いていて?

・解るようで、解らないような。とくにはどうということも・・・。

こうサカサカっと読んでしまえば、あたかもその流れで空き家の再生、にわかに実現出来る気がするでしょ。すんなり空き家を借りられる気になって、エリアマネジメントなんてカタカナ言葉が出てくると「なるほど」って感心して誰も反対しない。借りられるかどうかが大問題なのに、もう「プレーヤー」とか言ってる時点でアウト。空き家の持ち主、つまり大家さん、ほとんど60歳以上の高齢者ですよ。プレーヤーって言ったら、レコードプレーヤーかと(笑)。1番肝心要の大家さんに伝わらない言葉をつかって空き家再生の説明してどうするの。

・確かに、言われてみればそうですね。

当り前だけど、書いたり読んだりするぶんには簡単でも、その実行が難しい。「すべき」とか「望ましい」とか言ったってね。周りがなるほどなるほどって納得したって、肝心の大家さんを軽視してはどうしようもないでしょう。それで運わるくこの手の報告書を読んで、空き家問題ってこうやれば解決するのかと。ウチらでも出来そうってんで、カラフルなパワポ資料を作る。お偉い方々はミスリードされて、多くの自治体が失敗してるようですね。空き家バンクなんかその典型。表面的なところを真似するだけだから。

・空き家再生の成功事例って、ほとんど聞きませんね。
いくつかはあります。面識ないけれど尾道の豊田雅子さんとか。人づての話で申し訳ないけれど、豊田さん、1棟目の空き家、ご自身で購入されてます。覚悟きめてリスクをとって始められてますね。その真逆が「地域の専門家の結集」や「地域資源の見直し」、「点から線、線から面への展開」とか、聞こえのいい用語つかったプレゼン解説。こういうのに簡単にやられちゃう。地域における小さくても地道な民間活動をさしおいて、パワポ資料で号令かけて一網打尽を目論む。行政ぐるみの全体作業の成果にしたい日本的なバイアスがかかって、最後は誰も責任をとらない。初期段階の動きとしては相当マトはずれだと思います。

・どうしてマトはずれになるんでしょう?
空き家再生を花火大会に例えてみましょう。皆さんが注目するのは花火大会当日の夜空を彩る打ち上げ花火そのものと、それにまつわる会場や駅、街の賑わいぶりでしょう。誰しも本当は準備の方が重要だとはわかっているのに、こと空き家再生となると、再生後の賑わいの方を、空き家再生の本丸と混同してスケジュールを組む。準備は人任せにして、見栄えのいい成果だけ欲しい人ほどマト外れになりますね。

・賑わいを目的にしてはならないってことですか?
空き家再生に至る道はもっと地味で静かなものです。あんなボロボロだった空き家がこんなふうに再生されました、若者たちがこんなに活き活きと活動してます、どかーんと花火を打ち上げ、みなさんすごいでしょう、と言いたい気持ちはわかるけれど、そういうことを言いたい人が取り仕切ったら現場は大変でしょうね。

・イベント的なものは必要ありませんか。
空き家のイベント的なものは、空き家再生のおまけです。確かに、おまけで別の空き家の持ち主にアピールすることは出来るでしょうけれど、ガヤガヤするのを嫌う大家さんもいらっしゃるから、ただいけいけドンドンという訳には。慎重に、徐々にですね。

 

・大家さんにも、いろいろな方いらっしゃるんですね。

そうです。相続でたまたま空き家の持ち主になった方と、ほかにも賃貸物件をお持ちの大家さんなど様々。それぞれ立場が全然ちがいますからね。イベントなんかに着目する前に、まずは大家さんとの個別の信頼関係を築く。これを簡単に考えられては困ります。甘く見てる人つまり交渉の実状を知らない人ほど、空き家の再生、こうやればこうなるはずだ。だからこういう計画で行くべきだ、って「正論の横やり」。これが最悪。借りていない空き家はね、誰も手をつけられないお墓のようなもの。借りられてはじめて、いっしょに線香花火でもやりましょう、ってことです。


空き家を借りる前と後

・借りられた後はどのように関与するのですか?
空き家に残るゴミ処理から、具体的な活用計画、入居者選定、リノベーション。大家さんが面倒だと思えること、何から何まで。大家さんが絶対に損しないように。若者が入居した後は雨漏りとか家の不具合DIY補修。若者が活用しはじめてからは、若者に任せておけばいい。人選びさえ間違えなければ、若者は自主的に面白いことやってくれます。

・再生してからは口は出さないのですか。
入居してくれた若者に対して口を出したり、顔を出したりは、こちらが差し入れできる量と質によります。大人として出来るだけ距離を置く。集合写真にいっしょに写り込んで、自分が世話したかのように誇示するのは私の趣味ではない。絶対にイヤですね。
もちろん万が一トラブルなんかあった場合は、とくに大家さんに迷惑がかかりそうな時には遠慮なく乗り出します。大家さんとの関係は、契約後もずっと続きますし、切れてはならない。どこまで行っても大家さんの側に立って誠心誠意動き続けるのが芸術村の役割です。


・さきほど空き家再生のキモは、空き家を借りてからではなく、それ以前の家主との地道な交渉期間にこそある、というお話をされましたが、もう少し具体的にお願いできますか。
これまた聞くも涙、話すも涙ですから具体的な話はやめておきますが、ひとつ言えるのは、誇れるようなことではなく、地味だということ。現行の法律や条令が変わらない限りはね、空き家が使えるようになるまでの期間、つまり賃貸借契約に至る具体的な交渉というのは、例えば針に糸を通すような、糸を選んで、こうやって糸の先を細くよじっていって、もう1回細くして、また挑戦する、じつに個人的な、単純きわまりない地味な作業です。

・針に糸を通す?
そうです。空き家からは想像もつかないでしょう。誰かに相談しながら針に糸は通せない。誰かに頼まれたとしても老眼の母に頼まれるとか、個人的。糸の太さは針に合わせる。ほかの誰かの命令で決める訳でもない。オーナーさんと私個人との信頼関係にもとづく手作業的なものなんです。

・だから大手や業者には手が出せないんですね。
・そうかも知れません。空き家の再生はね、誰かに指示されてやることではない。これだけは確かです。

・うまくいかない場合が多いのに、どうして続けられるのですか?
ほんとそうですね。自分でもバカだなぁと思うことがよくあります。やってられるのは、たぶん私が私独りの責任で動けるから。それと空き家再生したことで私個人は報酬をもらったことがないから。

・えっ! 報酬なしでやってるんですか!
はい。報酬なし、というより、報酬でません、利益がないんだから(笑)。

悪名高きサブリースのこと

・以前お話うかがった時に、サブリースしてるって聞いてましたが。

悪名たかきサブリースしてます(笑)。旧ココノカは大家さんが全部の費用を負担し、借主の学生とも直接契約でしたけれど、それ以外はサブリースつまり又貸し。簡単に言えば大家さんから芸術村が借り、何万円か上乗せした金額で又貸ししてます。ここまで話をすると、皆さん、ボロい商売だ、相当の収益が見込めるんだろうと。おそるべき見当はずれですが(笑)。

・でも、加賀山さんが食べるくらいはどうにか?

いや、少食の私でも空き家の再生物件のサブリース5棟では食べてはいけません(笑)。それに仮に利益がでたとしても、千住芸術村は代表者(私)や理事に対して報酬を出さないことにしてますから。・・・サブリースね、確かに1棟あたり2万円とか3万円の利幅をつけて又貸しできたとしましょう。ただ、さっきも話をしたように、めでたく借りられた空き家のまんまをサブリースはできません。最初に空き家の中を片付けて、大量のゴミを廃棄処理し、傷みきった古畳をはがし、また産廃処理し、腐った土台を作り直し、床を張り直し・・・。

・初期投資ということですか。

・そうね、初期投資。空き家から出る産廃ゴミの処理だけでも半端ない量。2tトラック3台分は出る。家庭ゴミのような訳にはいきません。専門業者さんに処分をお願いすることになります。古い電気の屋内配線は危険なので電気屋さんに頼んで新規ひきなおし。敷地内の水道管から濾水が見つかれば、水道屋さんに頼んでひきなおす。割れてる窓ガラスなんかは自分たちで入れますけれど、まず、何から何までお金がかかる。でも契約前にいちいち問題視すると契約できませんしね。大家さんにもいろいろな事情がありますから、こうした費用負担を強いることはできないんです。もちろん入居する学生さんにも。原則、芸術村が肩代わりする。

・聞けば聞くほどリスキーですね。大丈夫なんですか?
あんまり大丈夫じゃなくなってきたので(笑)。最近は学生は別にして、起業家や社会人が最初っから好きにリノベーション改修したいっていう場合、それは自己負担でお願いしてます。それでもいま言った最低限度の、家として使えるまでの初期投資分は芸術村で負担するしかありません。

・初期投資って総額どれくらいですか? 回収できるまでは何年くらい?

うーん。あまり言いたくないけれど全部ひっくるめれば最低でも1棟100万円はかかってます。水周りをやり直して、エアコンつけてボヤボヤしてたらその倍くらいは。5年を目安に費用回収をめざしてますが、そううまくはね。

空き家を借りられて、建物の中を2週間かけて片付けてゴミ全部処理して、やっと新しく蛍光灯をつけた途端、借りて3ヵ月目か、大家さんの事情で明け渡さねばならない事もありました。入居者が決まらないうちだったのが不幸中の幸い。こういう実状を知らない人の中には、空き家でうまいこと儲けているんだろう、ってね。とんでもない。常に持ち出し状態。私の経営センスはゼロ、完全に経営者失格なんです。というよりビジネスとして関われるレベルじゃない。涙なしには語れません(笑)。

それでも続けられる理由
・空き家再生は、ご自身お一人の責任だから出来るっていうお話を。

たとえば私が一般会社員だったとする。上司がいれば上司に相談したり報告しますね。私は会社の方針によって動く。当然、会社の方針が変われば、私の対応も変わる。上司にその賃貸借条件ではダメだと言われれば、次の交渉では上司の意向を反映せざるをえないでしょ。極端な話、社長が途中で「やめた」と言う可能性もある。これではお年寄りの大家さんに信用してもらえない。そういうことです。

・大きな会社や行政をバックに動いた方がよさそうに思えますが、逆なんですね。
そうです、オレオレ詐欺のように、会社のお金を落とした、とか言って同情をかうこともできないけれど(笑)。なかなか理解されないんですよ、個人と個人の個人的な対等な話の結果だということが。大きな会社が組織をあげて本気で取り組めば取り組みようがあるとは思いますけれど、今の法制度のもとで損得だけ考えたら、やめておくと思います。

・続けられる理由はそれだけですか?
あとはね、そう、少なくとも私個人は、空き家の再生に社会的な意義があるとか、国の方針だからとかいう大義をかかげて関わってる訳じゃない。つまり社会的な評価を気にしながら空き家再生に関わる人はね、さっき言ったみたく、上の方針や風向き次第で空き家の再生やめますよ、途中で。私が関わるのは誰に命令された訳じゃない、個人的に自分の故郷千住の街の空き家再生が好きだから。何を言われようが、黙殺されようが、杭打たれようが全然平気。これに尽きますね。

・最近は空き家利活用に取り組む自治体も増えたようですが。
ほとんどうまく行ってるところはないように見えます。

・なぜなんでしょうか?
うまくいかない原因ですか。それ、おそらく頭のいい人たちが会議して、机の上でビジネスもどきの完全な計画を立てる。ネット上に出回る成功事例を下敷きにして。パワポで体裁のいいスケジュールや資料作るからじゃないですか。

・成功事例を下敷きにするのもダメですか?
成功事例って、あくまでも結果論でしょう。たまたま偶然その地域で特別なキーマンがいて成功したのかも知れない。尾道に豊田雅子さんが居なかったら、いまの尾道の空き家再生はないでしょ。全国的に活躍してる木下斉さんも昔は地元で孤軍奮闘。地域地域によって水も違えば人も違う。何より人。うわっつらだけ真似てもね。参考にはなるだろうけれども、事例は事例で、言い方をかえれば特殊事情によって成功した特例ですからね。

・成功事例は、あくまでも滅多にない特例なんですね。
そう。地方の場合、行政が地方創生予算とって東京のコンサルに任せたって話よく聞くでしょう。それで空き家の再生うまく行くと思います?

 

・どうなんでしょうね。
そもそもが大家さんは基本的に独りなんですよ。年寄りの大家さん独りに対して、こっちがコンサル交えて大樹の下でヒソヒソ相談してるなんて、ちょっとどうかと思います。多勢に無勢。対等じゃありませんね。作戦会議なんて失礼でしょう。気味が悪い。ダメです。

・コンサルタントってプロでしょう?
プロですね、怖いくらいの(笑)。最初の1年目はそれなりのイベントが組まれて花火がどーん、見栄えのいい写真を撮って、りっぱな成果報告書だけは残る。誰も読まないけれど。そのあとが続きませんね。全国どこでも金の切れ目が縁の切れ目。

・行政はどうしたらいいんでしょう?
行政がどうすべきかは、行政から聞かれたら答えます(笑)。


これからの千住エリアの空き家の再生
・この秋(平成29)足立区の空き家利活用事業のプロポーザルに応募を検討されているそうですね。であるならば、なおさら行政にひとことありませんか。
大手やコンサルが千住の空き家再生に関与するとなると面倒なことになりそうなので、これは是が非でも阻止したい。それで平成29年現在事務所をシェアしてる若手建築家と検討してるところ。彼はね、バランス感覚に優れ才知ありますから、私とは正反対、私としては、このさい彼を千住にひきとめて、世界に羽ばたくまでのしばらくの間、のびのび活動してもらいたいのが第一。もしプロポに応募するとなれば彼の才知に寄るところ大ですからね。いまこのタイミングで余計なことは言えません。えっ? 相当言ってる(笑)

・応募したら採用されるといいですね。
そうね。採用されてもされなくても、彼は彼で、私は私で、これまで通り自分の得意分野でやれることをひとつひとつ続けていくだけ。公金をつかって空き家をどうかしようとすると、小回り利かなくなって、大切な針に糸が通らなくなる恐れもあるから、いいのかわるいのかはまだ不明。欲を言えば、今後も続けていく上で、心許せる仲間が数人できたらいいな、とは思います。

・そろそろお時間かと。最後に加賀山さんが空き家再生をする上で大切にしていることって何ですか。それから加賀山さんにとって「空き家の再生」とは何ですか。
大切にしてること、うーん、「正直」かな。いや「忍耐」か。それに「無理しない、引きずらない、相談しない」。あとは「即断即決」。ぜーんぶ心がけてますね、いつも。
あと何だっけ、空き家の再生とは、のほうね、これはまだよくわかりません。空き家はね、磨けば光るボロい宝物かな。対象に向かう気持ちは恋愛といっしょ。建物としては一般住宅というより、どちらかと言えば寂れたお寺や神社に近い存在。この普通では扱いがたい宝物、宝物だって気づいてないひとりひとりの大家さんたちに、やりようによっては宝物になるって知ってもらう。信頼を得てね。誰も損しないように、ひとつひとつ生き返らせる。でもこれだけでは不十分。空き家がきれいになって使われ始めました、だけではダメ。大切なのは人です。有能な若者の活動拠点となること。この拠点88ヵ所を千住に作って、専用の地図を作って、みんなが歩いて巡れるようにするというのが私の初心。10年前から勝手に言ってるだけだけれど。今のペースだとまだあと50年以上かかる計算だから、加賀山はとっくに死んでます。したがって誇大妄想ということで(笑)。

・誇大妄想じゃありませんよ。若い人たちが引き継いで行ければ・・・。もっと聞きたいことがあるのですが、また機会つくってください。次は聞くも涙の話も是非お願いします。今日は長時間にわたり、ありがとうございました。
あ、もうおしまいですか。こちらこそ、ありがとうございました。これまであまり話をしてこなかったことを正直に話せて楽しかったです。ありがとうございました。最後にこっちから心配なこと、ひとつ聞いていい?

・どうぞ、なんでも。

このインタビューを読んでくれた人、おもしろいと思ってくれますかね。

 

・たぶん(笑)

 


・interview・text(C)Megumi Fujii 2017,9,18 千住芸術村事務所 

・掲載『OFF-ROAD』2018.5 2018.6

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